村に足を踏み入れて、エドガーはその惨状に思わず目を疑った。ケフカの裁きの光により、大人が居なくなったということは聞いていたものの、大人が居ないという現実はエドガーの想像以上に重いものであるらしい。世界が引き裂かれた日から一年以上が経ち、破壊され尽くした各地の集落も少しずつ復興の兆しを見せているものの、モブリズだけはまるでそこで時が止まってしまったかのようだ。簡素な畑と、当座の応急処置を施されただけの家が数軒。子供たちが駆け回っていなければ、ゴーストタウンだと言われても誰も疑わないだろう。エドガーは拳を握りしめた。
駆け回っていた子供たちが、エドガーの姿を見つけて警戒するようにこちらを見つめている。口角を上げて、不用意に近づかないようにして呼びかけた。
「こんにちは。私はエドガーという者だ。ここに、ティナという女性がいると聞いたのだが……」
「ティナママ? ママを知ってるの?」
ママ、という響きに少しだけ心臓が嫌な音を立てた。落ち着け、あれからどれほどの月日が流れていると思っているんだ。ティナがこんな大きな子を産んでいるわけがないだろう。その一方で、子供たちの様子とママと呼ばれ慕われているらしいことに安堵も覚える。どうやらティナにとってここの暮らしは悪いものではないらしい。
そんなところに、自分が姿を現していいものだろうか。悪い記憶が蘇るのでは、と心が揺れる。
「ママ、カタリーナと一緒に居なくなっちゃったの」
エドガーの内心をよそに、子供たちは不安そうな瞳をエドガーに向けながら、今の状況を的確に知らせてくれた。
「居なくなった? この村には居ないということかい?」
「わからないの」
「ぼく知ってるよ! カタリーナのお腹の中には赤ちゃんがいるんだ!」
「ディーンが冷たくするから、カタリーナは出て行っちゃったんだ」
子供たちが口々に言う情報にエドガーはさてどうしたものかと考え込んだ。ディーンとカタリーナという名前には聞き覚えがある。セリスとマッシュが最初にこの村を訪れたときに会ったという、ティナの次に年長のカップルだろう。子供ができたとは驚きだ。とはいえ、考えてみれば当然なのかもしれない。大人たちがいなくなり、不安が渦巻く中で愛する者の体温に救いを求めたのだろう。その結果として、新たな希望が誕生しようというのだ。それが自然の摂理なのだろう。
……ティナも、無意識にそうだったのだろうか。
「わかった。君たち、ディーンという人に会わせてくれないか?」
子供たちに連れられて、共同生活の根城と思しき建物に入ると、ディーンと呼ばれた少年がひどく憔悴しているのが見えた。自分も、ああいう姿をしていたのだろうか。
「ティナの仲間なのか?」
「そうだ。ああ、だが連れて行こうと考えているわけではない。挨拶に寄っただけだ」
「挨拶……だけど、ティナは」
「君の恋人と共に行方不明らしいな。困ったことだ」
「……俺、どうしていいかわからなくて。カタリーナのお腹に、俺の子供が……」
自分に子供はいないが、ディーンの姿は父王が衰弱していくのを見つめていた自分と少しだけ重なって見えた。背負わなければならないものの重さに、向き合う怖さ。あれから年月を重ねて、その恐怖は薄れた。否、慣れたというべきだろう。だが、違うところで同じ過ちを繰り返している。
――結局、何も変わっていないということか。
心の中でため息をついて、エドガーは紺碧の瞳をまっすぐディーンに向けた。
「……しなければならないことは、もうわかっているだろう。いつまでも逃げてはいられないぞ」
ティナは戦う力を失っているという話だし、一緒にいるであろう女性は身重だ。そう離れたところにいるわけではないだろうと当たりをつけて、エドガーは小屋の外に出た。ディーンに向けた言葉は、そのまま自分自身に返ってくる。わかっていたことから目を背けるのは、もうやめる。
今はただ、拒絶されてもいいから、ひと目会いたいと思う。
集落をつぶさに観察すれば、何となくの感覚は掴めてくる。人が居そうなところ、そうでないところ。人通りが何となく少なそうな離れに、比較的新しい足跡を見つけて扉を開けた。そういえば、初めてティナを抱いた夜もこんな風にドアを開けた。あのときはティナのすすり泣く声が耳に残って離れなくて、単に仲間として何があったのか気になった。
今は、違う。仲間としてではなく、ひとりの男性として、たったひとりの女性に逢いたくて、開けるのだ。
「え……、エドガー?」
そう、あのときもティナはなぜわかったのだと言わんばかりの表情で、エドガーを見つめていた。今と全く同じように。
「……やっと、会えた」
駆け回っていた子供たちが、エドガーの姿を見つけて警戒するようにこちらを見つめている。口角を上げて、不用意に近づかないようにして呼びかけた。
「こんにちは。私はエドガーという者だ。ここに、ティナという女性がいると聞いたのだが……」
「ティナママ? ママを知ってるの?」
ママ、という響きに少しだけ心臓が嫌な音を立てた。落ち着け、あれからどれほどの月日が流れていると思っているんだ。ティナがこんな大きな子を産んでいるわけがないだろう。その一方で、子供たちの様子とママと呼ばれ慕われているらしいことに安堵も覚える。どうやらティナにとってここの暮らしは悪いものではないらしい。
そんなところに、自分が姿を現していいものだろうか。悪い記憶が蘇るのでは、と心が揺れる。
「ママ、カタリーナと一緒に居なくなっちゃったの」
エドガーの内心をよそに、子供たちは不安そうな瞳をエドガーに向けながら、今の状況を的確に知らせてくれた。
「居なくなった? この村には居ないということかい?」
「わからないの」
「ぼく知ってるよ! カタリーナのお腹の中には赤ちゃんがいるんだ!」
「ディーンが冷たくするから、カタリーナは出て行っちゃったんだ」
子供たちが口々に言う情報にエドガーはさてどうしたものかと考え込んだ。ディーンとカタリーナという名前には聞き覚えがある。セリスとマッシュが最初にこの村を訪れたときに会ったという、ティナの次に年長のカップルだろう。子供ができたとは驚きだ。とはいえ、考えてみれば当然なのかもしれない。大人たちがいなくなり、不安が渦巻く中で愛する者の体温に救いを求めたのだろう。その結果として、新たな希望が誕生しようというのだ。それが自然の摂理なのだろう。
……ティナも、無意識にそうだったのだろうか。
「わかった。君たち、ディーンという人に会わせてくれないか?」
子供たちに連れられて、共同生活の根城と思しき建物に入ると、ディーンと呼ばれた少年がひどく憔悴しているのが見えた。自分も、ああいう姿をしていたのだろうか。
「ティナの仲間なのか?」
「そうだ。ああ、だが連れて行こうと考えているわけではない。挨拶に寄っただけだ」
「挨拶……だけど、ティナは」
「君の恋人と共に行方不明らしいな。困ったことだ」
「……俺、どうしていいかわからなくて。カタリーナのお腹に、俺の子供が……」
自分に子供はいないが、ディーンの姿は父王が衰弱していくのを見つめていた自分と少しだけ重なって見えた。背負わなければならないものの重さに、向き合う怖さ。あれから年月を重ねて、その恐怖は薄れた。否、慣れたというべきだろう。だが、違うところで同じ過ちを繰り返している。
――結局、何も変わっていないということか。
心の中でため息をついて、エドガーは紺碧の瞳をまっすぐディーンに向けた。
「……しなければならないことは、もうわかっているだろう。いつまでも逃げてはいられないぞ」
ティナは戦う力を失っているという話だし、一緒にいるであろう女性は身重だ。そう離れたところにいるわけではないだろうと当たりをつけて、エドガーは小屋の外に出た。ディーンに向けた言葉は、そのまま自分自身に返ってくる。わかっていたことから目を背けるのは、もうやめる。
今はただ、拒絶されてもいいから、ひと目会いたいと思う。
集落をつぶさに観察すれば、何となくの感覚は掴めてくる。人が居そうなところ、そうでないところ。人通りが何となく少なそうな離れに、比較的新しい足跡を見つけて扉を開けた。そういえば、初めてティナを抱いた夜もこんな風にドアを開けた。あのときはティナのすすり泣く声が耳に残って離れなくて、単に仲間として何があったのか気になった。
今は、違う。仲間としてではなく、ひとりの男性として、たったひとりの女性に逢いたくて、開けるのだ。
「え……、エドガー?」
そう、あのときもティナはなぜわかったのだと言わんばかりの表情で、エドガーを見つめていた。今と全く同じように。
「……やっと、会えた」