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2019/06/26 12:12
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 暗い部屋で、雨の音を聞くのは怖かった。魔導アーマーに乗った自分が、目の前の帝国兵を次々と倒していく夢をいつも見た。夢の中ではいつも雨が降っていて、それなのに自分の手のひらから放たれた炎は消えることなくすべてを焼き尽くした。怖くて眠れなくて、どうしていいかわからなくて、ベッドの中でうずくまって時間を過ごすことしかできなかった。
 そこに、ドアを開けて光を入れてくれた人がいた。

「……ティナ? 大丈夫かい」

 わけもわからず手を引かれて逃げるばかりだった自分に、温かいお風呂と食事と柔らかいベッドを用意してくれて、ほっと一息ついた記憶が、柔らかなテノールの声に呼び起こされた。迷子が親を見つけて駆け寄るかのように、彼に抱きついた。彼は驚いたような顔をしてティナを抱きとめ、そのまましっかりと抱きしめてくれた。
 彼は、とても温かかった。あの日フィガロ城で彼の命により振る舞われたもてなしの何倍も。顔を上げれば紺碧の瞳が温かい光を湛えているのが見えて、それが近付いてくるのに合わせて目を閉じた。その温かさが心地よくて、もっと温めてほしくて、ティナはすべてを受け入れた。それが何を意味するのかも、何をすればいいのかもわからなかった。温かい手に身体中をまさぐられて、自分でも触れたことのない箇所に何度もキスをされて、初めての感覚に大いに戸惑った。だが、怖くなかった。身を裂くような痛みに襲われて、壊れてしまうんじゃないかと思うほどだったはずなのに、その痛みすらも温かくて嬉しかった。嫌だなんて、欠片も思わなかった。
 身体を離した後、エドガーが顔を歪めて「すまない」と、低い声で囁いた。ティナはそんなことを言ってほしくなくて、「行かないで」と首を横に振った。離れていくエドガーを名残惜しいとすら思った。
 その夜は、悪夢を見ることもなく、心をざわつかせていた雨の音すらも心地よい音楽と化して、ぐっすりと眠れた。エドガーは一晩中側にいてくれた。
 それがどうしてなのかはわからない。旅の合間に読んだ本で、自分たちがした行為は愛し合う者同士がするらしいことはわかった。だけど、愛という感情がティナにはピンとこない。ただわかるのは、エドガーの身体はとても温かくて、それを自分は求めているということだけだった。他の人ではきっとダメだと感じた。
 愛し合う者同士がすることなのに、愛し合っていなくてもできるのは不思議だと思った。愛とは何なのだろう。
 

「ん……っ」
「この体勢はつらいかい?」
「だい、じょうぶ……、あっ」

 ティナの片脚を持ち上げ、肩に引っ掛けた状態でエドガーがグッと腰を突き入れた。身体の一番深いところでエドガーの熱を感じる。きもちいい。

「声、抑えて。聞こえてもいいなら別だけど」
「ん……っ、がまんする……」

 エドガーの紺碧の瞳がティナを捉え、一瞬歪んでそっと外される。ティナの胸がちくりと痛んだ。
 最初に会ったときは、まるで監視でもするかのような深い青がとても怖かったのに、暗い部屋のドアを開け、抱きしめてくれたときから不思議と怖くなくなった。

「んっ、んぅ!」
「……っ、は、っ」

 エドガーの動きは激しさを増して、ティナの思考もそれに合わせてどんどん塗りつぶされていく。
 もう、何も考えられない。

「あ……っ、あぁあ……っ!」
「ぐ……っ」

 頭の先から足の先まで、エドガーのことでいっぱいになった瞬間、エドガーが身体を震わせてティナの中から自身を引き抜いて、腹の上に熱いものをぶちまけた。そのまま深い溜息をついて息を整えながら、エドガーがティナの頭を撫でる。
 どうして、エドガーはいつもそんなに苦しそうな顔をしているのだろう。
 再びちくりと胸が痛んだ。
 やはり、エドガーにとっては迷惑なのだろうか。雨の夜にエドガーと「一緒に寝る」ようになって随分になる。いつもというわけにはいかなかったが、可能なときはなるべくエドガーと過ごすようにしていた。エドガーといれば、暗い部屋で雨音が聞こえていても全く気にならなかったし、怖い夢も見なかった。何よりエドガーはとても温かかった。
 だが、エドガーはいつも苦しそうな顔をしている。本当は嫌なのかもしれない。でなければ、あんな苦しそうな顔はきっとしないだろうとティナは思った。もし、自分が幻獣とのハーフでなければ、エドガーと「愛し合う」ことができたのだろうか。

「……すまない」

 どうしてエドガーは謝るのだろう。自分たちはいけないことをしているのだろうか。愛し合っていないから?

「エドガー」
「何だい」
「私こそ、いつも、ごめんなさい……」

 胸がぎゅっとなって苦しい。

「エドガーは、他の人と眠る方が好き?」

 エドガーは何も答えずに、黙ってティナを抱きしめた。彼の力強い腕に包まれて、温かいな、と思った。胸の痛みがするすると解けていくのを感じながらティナは意識を手放していった。エドガーの部屋に来る前はあんなにうるさかった雨の音が、いつの間にか全く聞こえなくなっていた。

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