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2019/02/21 15:24
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 セッツァーの寝室には部屋の主以外は誰も入ったことがない。ブラックジャック号のときからそういう「ルール」で、リルムはもちろん他のメンバーも一夜の恋人も、彼の寝室の前に立つことはあっても足を踏み入れたことはなかった。それが、初めてその「聖域」に招き入れられて、リルムはふわふわとした心地で辺りを見回した。リルムの許容量はとっくに限界を超えている。

「結構本だらけだね……」
「まあな。自分の好きなように生きるのも楽じゃねえってことだ」

 本棚には所狭しと技術書や理論書が押し込められていて、心理学や経営学などジャンルも幅広い。部屋の中央には大きな作業台が置かれていて、飛空艇の模型やら図面、参考資料にしたと思しき本が積まれている。普段は余裕綽々に見えるセッツァーの違う一面を垣間見た気がして、リルムは胸の高鳴りを覚えた。
 ベッドにも積まれていた本を作業台に移し、バサバサとシーツを整えているセッツァーの後ろ姿を眺めながら、今更ながら自分が置かれている状況に顔が熱くなってくる。つい数時間前には、自分はサマサに帰るのだと覚悟を決めて、涙が出そうになるのを堪えながら自分の家まで歩いて行ったというのに、今はこれからセッツァーの「女」になるのだと思うと、頭がおかしくなりそうになる。
 気を紛らわせようと、部屋をあちこち見回してみると出入口とは別のドアが目に入った。

「ねえ、あれ何のドアなの?」
「ん? ああ、ありゃシャワー室だ」

 事も無げに答えるセッツァーに、リルムは一瞬目を見開いた。

「えっ、セッツァーの部屋にはシャワーあるの!? リルムの部屋にはないよ!?」
「ここは俺の飛空艇で、俺の部屋なんだから当たり前だろ。部屋全部にシャワーをつけられるような余裕があると思うか」
「そりゃそうだけど……。部屋にあるなら、シャワー帰りに誰かに会うかもとか気にしなくていいじゃん」
「そんなところまで気が回るかよ。そもそも、お前みたいなのがこんなに長く乗ることなんか想定してなかったんだからな。まあ、これからはどうせここで寝起きするんだからここを使えばいいんじゃねーの」
「こ、ここでねおき……」

 さらっと言われた一言に、リルムはまたしてもしおしおと黙り込んでしまった。それを横目に見ながら、セッツァーはくつくつと笑った。こんなに面白いものだと分かっていれば、もっと早くに自分の想いを受け入れていればよかったかもしれない。これだけでこんなに照れられてしまうと、つられて自分も少し甘酸っぱい気持ちになってくる。悪くない。
 コートを脱ぎ、ベッドに腰掛けて「来い」とリルムに手を差しのべる。一瞬視線を彷徨わせて、おずおずと柔らかな手が重ねられるだけで、ぞくりとした。リルムがベッドに膝をつき、セッツァーの目の前にリルムの豊かな胸が来る形になる。間近で改めて見ると、その迫力に圧倒されそうになる。

「あ、あの、セッツァー」
「何だ」
「べ、ベッドに来たでしょ。その、さっきの答え、聞いてない……」
「さっきの……? ああ」

 リルムのことをどう思っているのか、という問いのことを言っているらしい。セッツァーとしてはさっきのキスで十分わかるだろと言いたいところだが、まだ十代の少女には言葉が必要らしい。厄介なもんだなと心の中で苦笑する。

「わかんねえか」
「う、だって……」
「仕方ねえな」

 ぐいとリルムの腕を引き寄せてベッドに横たわらせ、自分は少女の身体をまたぐようにしてのしかかる。ベッドがぎし、と音を立てた。リルムの小さな顎に指をかけ、少し上向かせると唇がほんの少し開かれるのが、顔立ちの幼さとは裏腹に妙に艶っぽくて引き寄せられる。

「一度しか言わねえぞ」

 改めて言葉にするとなると、妙に気恥ずかしい。よくもまあ8年もの間、リルムはこの言葉を気安く口にできたものだなと思う。若さとは恐ろしい。
 リルムの大きな瞳が不安に揺れていて、そういう顔をさせたいわけではないという思いが口をつく。

「……好きだ」

 言うが早いか、キスでリルムの唇を塞いだ。今の自分はきっと、世界で一番情けない顔をしているに違いない。
 舌先でリルムの歯列をなぞり、奥に侵入して彼女の舌に触れるとそんな気恥ずかしさもどこかに飛んでしまう。出てこいよと言わんばかりに絡ませ、吸い付き、夢中になってリルムの全てを啜ってしまう。リルムの唇も唾液もとても甘くて、時折漏れる熱い吐息も、リルムの髪から香る匂いも全てが甘くて、セッツァーの理性も甘く溶かされそうになる。
 どうすればいいのかわからないとでも言いたげに身体をくねらせるリルムが、セッツァーにはもっとしてほしいと言っているようにしか見えなくて、もっとしたいのは自分の方ではないかという妙に冷静な思考も雲散霧消していく。

「……っ、はぁ、あ……」
「は……っ、こんなになるもんかよ……」

 唇を離せば、蕩けた瞳ではぁはぁと息を荒げ、うっすら開かれた唇からたらりと一筋の唾液を流すリルムがこちらを見ていて、辛抱たまらなくなる。それだけで、下半身がぎちぎちに窮屈だ。ベッドに寝転がった状態でも、その豊かな乳房はなお余りある存在感を主張していて、セッツァーは生唾を飲み込んだ。

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