「ティナすっごく綺麗だったねー!」
「ああ、マリアの格好をしていたセリスもなかなかのものだったが、ティナのドレス姿も見応えがあったな。エドガーの野郎もあんな美人の嫁を侍らせることができて鼻高々だろうよ」
「ね、ね、リルムもドレス着たら綺麗になると思う? 見てみたくない?」
「見るだけでいいならな」
「もー! ウェディングドレスなんて一人で着たって意味ないじゃん」
唇を尖らせてぷりぷりと文句を垂れるリルムをちらりと見やって、セッツァーは飛空艇のハッチに手をかけた。世界が平和になって数年が経ち、かつての仲間であったフィガロ国王がついに最愛の妻を迎えた式典の帰り道だ。
当たり前のように飛空艇に乗り込んでくるリルムに、浅いため息をついてホールの灯りをつける。「世界中を旅して色んな絵を描きたい」と言ってサマサの村を飛び出してきたこの少女はどうやら下心の方が大きかったらしく、あの手この手でセッツァーを口説き落とそうとしてくる。仲間として旅をしていた頃にもやけに懐かれていたし、キスをねだられたこともあったが、それ自体はリルムの幼さに起因するものだろうと勝手に解釈して、気が向いたときには軽く応えてやったりもしていた。セッツァーが思っていた以上の意味が含まれていたと思い知ったのは、彼女がサマサの村を飛び出してきた夜のことだった。以来、日々成長していくリルムのまっすぐな好意を眩しく感じながらも、さらりと躱しながら飛空艇で二人して当てもなく世界中を飛び回っている。
あの戦いから数年が経ち、リルムは10歳の頃のあどけなさを残しつつも見違えるような成長を遂げた。細かった手足はすらりと伸び、腰回りはまろやかな曲線を描くようになった。特筆すべきは男性であれば誰もが注目するであろう胸元だ。元々10歳にしては体格のいい少女だと思ってはいたが、ある日腕にまとわりついてきたときのむにゅりとした柔らかな感触に気付いてしまった。顔立ちと言動の幼さとのギャップに混乱を覚えつつ、一抹の興奮も感じたことは否定しようがない。
だが、セッツァーとリルムの年齢差は17もあるし、何より彼女は大事な仲間で、その祖父もまた大事な仲間だ。他の商売女のように安易に手を出してはならないことは自明だったし、まだ10代のリルムにはもっと色々な出会いが待っているはずで、それをさすらいのギャンブラーのために潰してしまうのは憚られる気がした。それに、17も年下の少女を慌てて奪わなければならないほど女に困ってはいない。セッツァーはスピードとスリルが何よりも生き甲斐で、それがないと生きていけない男だ。そんな自分が身を固めることなど想像もつかなかった。
とはいえ、悲しいかな身体は素直なもので、無邪気に腕に押し付けられる柔らかな感触にはたまらない気持ちになってくる。それを悟られないようにコートの前を気持ちだけ合わせて、視線はリルムから外す。
「ねえ、色男とティナが来るのいつだっけ?」
「明日とか言ってたな。フィガロ産の美味いワインを持ってくるとか」
「そっかー! 色々話聞きたいな」
「お前は酒はナシだぞ」
「わかってるよー」
身体を離し、ふんすと鼻を鳴らしているリルムの揺れる胸に、一瞬視線を奪われたのは心の奥底にしまっておくことにして、コートの裾を翻してセッツァーは自室のドアを開けた。
「……やっぱり一緒に入っちゃダメ?」
「当たり前だろ。サマサに置いていかないだけありがたいと思え」
「ちぇ。でも、傷男はそういうところが優しくて好き」
「そうかよ」
もう何度目かわからないやり取りだ。自分でも不思議な気持ちになる。17も年下の少女が自分を好きだと慕ってきて、興味などないはずなのにそれを無碍にできないでいる。リルムがかつての仲間だからというのもあるが、それだけではない、何とも説明しづらい感情から来ているものだ。
セッツァーの脳裏に、あの戦いが終わって数ヶ月後のことが蘇る。サマサに停泊して、飛空艇の整備をしていたところをじっと見つめていたリルムが「乗せてほしい」と言ってきた。
「どこに行きたいんだ」
「どこでもないんだけど……。飛空艇なら、会えるかなって思って」
幼かったリルムはそれ以上のことを説明するすべを持っていなかったらしく、首から提げた二連の指輪を小さな指で撫でるだけだった。セッツァーはストラゴスに目配せをして、何も言わずにリルムを飛空艇に乗せてやった。甲板で風を切っている中で、ただひたすらに空を見つめるリルムの後ろ姿が、あの頃のやりきれない思いを抱えた自分と重なって見えた。
「会えたのか」
「うん、多分ね」
「空はいいだろう」
「うん」
それから何度かそうしたやり取りを経て、リルムが転がり込んできた。気ままな空の旅を楽しんでいたセッツァーにとって、それはあまり歓迎すべきことではなかったが、姿は大きくなっても表情は変わることなく空を眺めるリルムを見ると何も言えなかった。
(まあ、いつかは飽きるだろ)
そう自分に言い聞かせて、にこにこと手を振るリルムに片手を上げて、寝室のドアを閉めた。存在を主張し始めている己自身からは、目を背けることにした。相手はいくら何でも17も年下の子供なのだ。好きだと言われて悪い気はしないが、愛だの恋だの「ごっこ遊び」に付き合うつもりは毛頭ない。
……とはいえ、腕に押しつけられた柔らかな感触だけは、程よく堪能させてもらうことにしよう。
そう都合よく考えると、セッツァーはベッドに座り込んだ。
「ああ、マリアの格好をしていたセリスもなかなかのものだったが、ティナのドレス姿も見応えがあったな。エドガーの野郎もあんな美人の嫁を侍らせることができて鼻高々だろうよ」
「ね、ね、リルムもドレス着たら綺麗になると思う? 見てみたくない?」
「見るだけでいいならな」
「もー! ウェディングドレスなんて一人で着たって意味ないじゃん」
唇を尖らせてぷりぷりと文句を垂れるリルムをちらりと見やって、セッツァーは飛空艇のハッチに手をかけた。世界が平和になって数年が経ち、かつての仲間であったフィガロ国王がついに最愛の妻を迎えた式典の帰り道だ。
当たり前のように飛空艇に乗り込んでくるリルムに、浅いため息をついてホールの灯りをつける。「世界中を旅して色んな絵を描きたい」と言ってサマサの村を飛び出してきたこの少女はどうやら下心の方が大きかったらしく、あの手この手でセッツァーを口説き落とそうとしてくる。仲間として旅をしていた頃にもやけに懐かれていたし、キスをねだられたこともあったが、それ自体はリルムの幼さに起因するものだろうと勝手に解釈して、気が向いたときには軽く応えてやったりもしていた。セッツァーが思っていた以上の意味が含まれていたと思い知ったのは、彼女がサマサの村を飛び出してきた夜のことだった。以来、日々成長していくリルムのまっすぐな好意を眩しく感じながらも、さらりと躱しながら飛空艇で二人して当てもなく世界中を飛び回っている。
あの戦いから数年が経ち、リルムは10歳の頃のあどけなさを残しつつも見違えるような成長を遂げた。細かった手足はすらりと伸び、腰回りはまろやかな曲線を描くようになった。特筆すべきは男性であれば誰もが注目するであろう胸元だ。元々10歳にしては体格のいい少女だと思ってはいたが、ある日腕にまとわりついてきたときのむにゅりとした柔らかな感触に気付いてしまった。顔立ちと言動の幼さとのギャップに混乱を覚えつつ、一抹の興奮も感じたことは否定しようがない。
だが、セッツァーとリルムの年齢差は17もあるし、何より彼女は大事な仲間で、その祖父もまた大事な仲間だ。他の商売女のように安易に手を出してはならないことは自明だったし、まだ10代のリルムにはもっと色々な出会いが待っているはずで、それをさすらいのギャンブラーのために潰してしまうのは憚られる気がした。それに、17も年下の少女を慌てて奪わなければならないほど女に困ってはいない。セッツァーはスピードとスリルが何よりも生き甲斐で、それがないと生きていけない男だ。そんな自分が身を固めることなど想像もつかなかった。
とはいえ、悲しいかな身体は素直なもので、無邪気に腕に押し付けられる柔らかな感触にはたまらない気持ちになってくる。それを悟られないようにコートの前を気持ちだけ合わせて、視線はリルムから外す。
「ねえ、色男とティナが来るのいつだっけ?」
「明日とか言ってたな。フィガロ産の美味いワインを持ってくるとか」
「そっかー! 色々話聞きたいな」
「お前は酒はナシだぞ」
「わかってるよー」
身体を離し、ふんすと鼻を鳴らしているリルムの揺れる胸に、一瞬視線を奪われたのは心の奥底にしまっておくことにして、コートの裾を翻してセッツァーは自室のドアを開けた。
「……やっぱり一緒に入っちゃダメ?」
「当たり前だろ。サマサに置いていかないだけありがたいと思え」
「ちぇ。でも、傷男はそういうところが優しくて好き」
「そうかよ」
もう何度目かわからないやり取りだ。自分でも不思議な気持ちになる。17も年下の少女が自分を好きだと慕ってきて、興味などないはずなのにそれを無碍にできないでいる。リルムがかつての仲間だからというのもあるが、それだけではない、何とも説明しづらい感情から来ているものだ。
セッツァーの脳裏に、あの戦いが終わって数ヶ月後のことが蘇る。サマサに停泊して、飛空艇の整備をしていたところをじっと見つめていたリルムが「乗せてほしい」と言ってきた。
「どこに行きたいんだ」
「どこでもないんだけど……。飛空艇なら、会えるかなって思って」
幼かったリルムはそれ以上のことを説明するすべを持っていなかったらしく、首から提げた二連の指輪を小さな指で撫でるだけだった。セッツァーはストラゴスに目配せをして、何も言わずにリルムを飛空艇に乗せてやった。甲板で風を切っている中で、ただひたすらに空を見つめるリルムの後ろ姿が、あの頃のやりきれない思いを抱えた自分と重なって見えた。
「会えたのか」
「うん、多分ね」
「空はいいだろう」
「うん」
それから何度かそうしたやり取りを経て、リルムが転がり込んできた。気ままな空の旅を楽しんでいたセッツァーにとって、それはあまり歓迎すべきことではなかったが、姿は大きくなっても表情は変わることなく空を眺めるリルムを見ると何も言えなかった。
(まあ、いつかは飽きるだろ)
そう自分に言い聞かせて、にこにこと手を振るリルムに片手を上げて、寝室のドアを閉めた。存在を主張し始めている己自身からは、目を背けることにした。相手はいくら何でも17も年下の子供なのだ。好きだと言われて悪い気はしないが、愛だの恋だの「ごっこ遊び」に付き合うつもりは毛頭ない。
……とはいえ、腕に押しつけられた柔らかな感触だけは、程よく堪能させてもらうことにしよう。
そう都合よく考えると、セッツァーはベッドに座り込んだ。